第1章

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「ダイヤを盗まれた!」 これで、3人目か私の恋のお相手も。 「いいのよ、気にしないで。だけど、あなたどうしてなの?よりによって、婚約指輪のダイヤを盗まれるなんて?おっかしなひとね。わたしは、てっきり、質草に入れたのだと思ってたわ。」 「申し訳ない。甘えが過ぎた。」 「なぁに、他の女に貢いじゃったの?私というものがありながら…。」 「…さすがに、…それはないよ。…。きょ、今日のディナーだって」 「30万ってところかしら?」 「予約するのだって、大変なんだぜ?」 「あなた、ここをどこだと思ってるの?」 「ちょっとツリーがって、そこは、最低限クリアしたんだからね?」 「あなたって、ほんと馬鹿ね。あなたに差し出したダイヤいくらすると思っているの?」 「いや、…300万くらいかな?お金だけは返せるしさ。」 「金額はどうでもいいの。ただ、その300万って、あなたのお値段かしら?安い男に付き合う理由なんてないわ。あのダイヤはね、宝石商のおば様からいただいた、大事なお値打ち物なの。300万?ちょっと面白いけど、あなたと会う機会はもうないものになったわね。」 「金なんかより、信頼だろ!」  男は我を忘れてキレようとしていた。 「何を激昂してるのかしら?」 女が黒縁メガネをかけると、不機嫌そうに彼女はつぶやいた。 「毎度あり。さあ、これからは懺悔の時間よ。お兄さん。質流れでしのげるなんて甘い考えはやめて頂戴。」 彼女の顔は、男の行った質屋の顔をしていた。 男はすべてを失った。お金も信頼も、生きて来たという自分の過去さえも。未来を生きる希望さえ。そして、唯一救いのサラ金も。 「限界がきたようですね。救急車は呼んであげるわ~。」 男は、顔中真っ赤になった。 「ホント、かわいそうな子を拾ってきちゃうけど、どうして、通じ合わないのかしらね。あなたの要望ならわかるのに。」 男運悪いのかしら?お婆様の知恵には常々感謝しなくちゃね。
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