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「あれ、僕は今、何を‥‥」
放り投げたお賽銭の音で我に返る、不意に護摩を焚く薫りに気を取られ、その疑問すら忘れて階段を下りた。
本堂に一礼をして振り返ったその時だった。
一人の女性が50メートルも向こうから本堂に向けて歩いて来る。
歳は僕より若いのは確か、飛び抜けて美人と言うわけでも無いが、自信を持って可愛いと言える容姿。
そんな彼女からずっと目を逸らせないでいる理由は――
すれ違うその瞬間まで僕を見つめていたその目が、妙に心に残ったから。
僕は敢えて振り向きもせずそのまま駅に向かった。
何だろうあの女性、微かに見覚えがあるような‥‥
中学校、いや小学校だっけか、物静かでいつも教室で本を読んでいた、あの子に似ていた。
それは心の片隅に今でも残っていた淡い恋心。
僕はまた電車に乗っていた。
富岡八幡宮か瀬戸神社にも行きたいと思ったのだが、小腹がが空いてきた事もあり、日ノ出町で降りて、ブタまんを買うことにした。
中華街が近いので、ここのブタまんも名物となっている、やはり少し大きめで食べごたえの650円、それとペットのお茶を買った、つまり車内で食べたかったのだ。
御弁当を片手に、年甲斐もなく遠足気分で再び京急に乗り込む、この辺りから西へ向かう車両には観光客が目立つようになり、車内で御弁当を食べている人を見れば、不思議と羨ましく思う程だ。
喉かなパノラマとちょっとローカルテンポな揺れ方が心地好い、僕は自慢気に大きなブタまんを紙袋から取り出し、いざかぶりつこうとした瞬間だった。
「うわっぶっ」
危なく口に入れたブタまんを吐き出す所だった、それほど驚いたのだ。
僕の左斜め前に、あの女性が座っていたのだ、川崎大師ですれ違ったあの女性が。
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