縁線めぐる物語

4/15
前へ
/15ページ
次へ
「あれ、僕は今、何を‥‥」 放り投げたお賽銭の音で我に返る、不意に護摩を焚く薫りに気を取られ、その疑問すら忘れて階段を下りた。 本堂に一礼をして振り返ったその時だった。 一人の女性が50メートルも向こうから本堂に向けて歩いて来る。 歳は僕より若いのは確か、飛び抜けて美人と言うわけでも無いが、自信を持って可愛いと言える容姿。 そんな彼女からずっと目を逸らせないでいる理由は―― すれ違うその瞬間まで僕を見つめていたその目が、妙に心に残ったから。 僕は敢えて振り向きもせずそのまま駅に向かった。 何だろうあの女性、微かに見覚えがあるような‥‥ 中学校、いや小学校だっけか、物静かでいつも教室で本を読んでいた、あの子に似ていた。 それは心の片隅に今でも残っていた淡い恋心。 僕はまた電車に乗っていた。 富岡八幡宮か瀬戸神社にも行きたいと思ったのだが、小腹がが空いてきた事もあり、日ノ出町で降りて、ブタまんを買うことにした。 中華街が近いので、ここのブタまんも名物となっている、やはり少し大きめで食べごたえの650円、それとペットのお茶を買った、つまり車内で食べたかったのだ。 御弁当を片手に、年甲斐もなく遠足気分で再び京急に乗り込む、この辺りから西へ向かう車両には観光客が目立つようになり、車内で御弁当を食べている人を見れば、不思議と羨ましく思う程だ。 喉かなパノラマとちょっとローカルテンポな揺れ方が心地好い、僕は自慢気に大きなブタまんを紙袋から取り出し、いざかぶりつこうとした瞬間だった。 「うわっぶっ」 危なく口に入れたブタまんを吐き出す所だった、それほど驚いたのだ。 僕の左斜め前に、あの女性が座っていたのだ、川崎大師ですれ違ったあの女性が。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加