縁線めぐる物語

5/15
前へ
/15ページ
次へ
それに気づいてしまった僕のランチタイムは、ブタまんの味も全く分からず、喉かな風景など楽しむ余裕も無く、いつもの通勤列車と同じくただ目的地に着くまでの移動手段と化した、いや少し違う、斜め前に座るその女性は文庫本を膝に広げ伏し目がちに電車の揺れを楽しんでいる、僕はその女性をチラチラと目の端で捉えては、意識過剰で落ち着きを無くす、僕は動揺している、どうしよう。 電車を降りれば良いだけの話、そうだ富岡の駅まではあと少し、そこで降りればまた一人旅を続けられる、元々富岡八幡宮に行きたいと思っていたし、それで解決だ。 「京急富岡~富岡~」 「ドアが閉まりますご注意下さい」 僕は腕を組み、目を閉じて眉間に皺をよせ考えた。 なんで富岡で降りなかったのか。 あの女性が気になるばかり邪な気持ちが働いたのか、違う、違う、違う、たとえ彼女が次の駅で降りたとしても、追って行ったりしない、僕は、そう、瀬戸神社に行くんだ。 無理やり自分を納得させたつもりだが、すぐまた勝手に妄想する、彼女も金沢八景で降りたらどうする、声をかけてみる?そんな訳あるか、自問自答は続いた。 なんだか変な緊張が走った。 いよいよ目当ての金沢八景駅が近づいてきた、次の次だ。 取り敢えず僕は絶対金沢八景で降りる、瀬戸神社に行くわけだから、よし、それは決定、問題は彼女もそこで降りたらどうするかだ、つまり彼女に声をかけてみる?なんて言って?一緒に瀬戸神社行きませんかって、うわっ超緊張してきた、ま、まあ、どこから来たの的な挨拶くらいなら大丈夫だろう、しかし本当に緊張する。 生唾を飲み込み、僕は額の汗をハンカチで拭った。 「金沢文庫~金沢文庫~」 「ドアが閉まりますご注意下さい」 いよいよ次の駅かって、あっ!
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加