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消えた、彼女が消えた。
左斜めの座席は今は空席になっていた。
すると、走り出した車窓から改札に向かうあの女性の後ろ姿を見つけた。
あっ、ああ、あ、ふぅ。
暫し思考が停止して彼女のいた方を見つめ続ける。
いや、良いんだ、むしろいい退屈しのぎになったし、ドキドキしたのも久し振りだったし‥‥はぁ。
「金沢八景~金沢八景~」
「‥‥着いたか」
気を取り直して瀬戸神社に向かった。
ホームに降りると彼女の事はすぐに頭から消えた、磯の香りがして興味はまた、旅の行方に向いた。
瀬戸神社は来たことが無い、今まで行ってみようとも思わなかったのだが、足を運んで良かった。
横浜からすぐの場所にこんなぽっかりと昔を今に残す場所があったとは驚きだ。
まるで鎌倉時代から変わる事が無いようにと、海や木々の自然の力が守ってくれているように感じた、そんな強い力の風光明媚をその身に受けた。
横たわる御神木を見つけた。
ビャクシンの木と書いてあった、僕はどうしてもその場所から離れなれなくなってしまった。
この木は大昔からこの場所にある、何千、何万もの人々の力で今に伝えている。
僕がその時間を理解するためにあらゆる事をしたとしても、残念ながらその何万分の1程も理解できまい、僕だけじゃない、人間なら皆そうだ、だからこそ人は命を繋いで時間に抗う、儚くも無限に。
妙な妄想に耽ってどのくらいの時間が経ったろう、やっと歩みを進ませる気になった。
その時僕は気づかなかった、
すぐ後を白いワンピースを着た、あの女性が通りすぎた事に。
神社の境内を進む。
やしろや周辺の建造物や樹木を見ると歴史を感じる、やみくもに、綺麗に新しくすれば良いって訳じゃ無い事がよく分かる、何百年も昔の人々と同じ物を観る凄さ、吸い込む空気でさえ鎌倉時代の重味を感じた。
柏手を一つ、目を伏せて皆の幸せを願った。
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