第三章

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夜も更けてきたので明日についてはこの辺にして、ティアラにゆっくり休むよう言いつける。 けれど、その婚約者であるヨシュアには、もう少し残っているよう指示をした。 「わかりました。おやすみなさい」 多少ごねるのではと心配していた妹姫は不満な表情を一つも見せず、ファウストは挨拶だけして部屋を出ていく背中を見送った。 ヘルマンも下がらせ、一人残されたヨシュアも、別段、文句のある顔つきではない。 「外で人混みに紛れて何かされるのは怖いが、危険という意味では、ここもそう変わらん。むしろ、アスラ皇帝とサイラスという重石がなくなる分、余計な心配が増していると言えなくもない。頼むぞ」 「はい」 しつこいほどの念押しだったが、さすがに、こんな状況で無理だの困るだのと言い張るヨシュアではなかった。 そんな様子を眺めながら、ファウストはいつかのレスターとのやりとりを思い出していた。       * * * 「どうして、そんな真似をしたのですか!」 近隣諸国の要となるオアシスの舵取りを危なげなくこなしてしまえるレスターの行動には必ず意味がある。 一見、いたずらのようなちょっかいでも、後から見れば数多くの歯車を動かす狙いがあったのだと知れる。 何より、目の前で精一杯だった自分の為に祖国を離れてまで支えてくれていると誰よりも肌で感じているので、やる事なす事あまり文句を言った覚えはないのだが、今回は本気で信じられなかった。 国家機密である山守の神を、明日どうなるとも知れない少年と顔合わせさせたのだと言うのから。 すでに事後でありながらも言い募るのは、少しでも納得する答えがほしいからだ。
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