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「ティアラに必要だと判断したからだ」
対して、レスターは腕を組んで平然と返した。
「ヨシュアを帰さない気ですか」
「帰してどうする。ティアラの婚約者なのだろう。いずれはウェイデルンセンに属するのだから、問題はないはずだが」
「契約内容をご存知なのに、そうおっしゃるのですね」
レスターはため息をついて首を傾けた。
「当然だ。しかし、いい機会でもある。私達では、本当の意味でティアラを守ってやれないのだからな」
「叔母上、その覚悟を求めるつもりなのですか。こんな風に縛ってしまえば、望み通りになるとでも? あれはシモンとは違うのですよ」
これまで直接口にはしてこなかった互いに負い目のある名前を出したことで、二人きりの部屋がしんと静まりかえる。
しかし、レスターは顔色一つ変えなかった。
「だが、多少なりともお前が目を留めた少年だ。全く見込みがないわけでもなかろう。それに、大切な姪を守ってくれた相応の礼をしてやりたかったしな」
「まさか、ヨシュアの為でもあるとおっしゃるのですか? アレを知った者に、自由などないというのに?」
「山守は本来、人に不自由を強いる存在ではない。そして、あの少年には、仕方なくここに居座れる理由が必要だった。だろう?」
「……では、当人に居座るつもりがなくなったらどうするおつもりですか」
レスターは腰に手をあて、自分が全ての責を負うので心配するなと高潔な女王らしく断言した。
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