第三章

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      * * * なんでも出来そうな顔で不器用に足掻いているヨシュアを前に、ファウストは目を閉じて女王巫女に逆らう事を静かに決意する。 「今回は災難だったな。お前も、ウェイデルンセンに来なければ、こんな事態にはならなかったと考えた事だろう」 微妙に調子が変化したのを察したヨシュアは瞬きだけを返した。 「お前は、これからどうするつもりだ」 「どうとは?」 「早々にシンドリーへ帰れば、今ある皇帝神や神官の興もさすがに削がれる。お前の真意がどうだろうとな」 「……」 「オアシスでの経験は、実家の商団でも役に立つはずだ。オアシスが気に入ったのなら、それでもいい。あのラク・カルヴァドスに目をかけられたのだから見込みはある。物産展での報告を見ても、商団仕事に適性があるのだろう」 「ありがとうございます」 褒められているヨシュアは薄気味が悪かった。 「ここまで付き合ってもらった褒美に、一人立ちの援助をしてやろう。自分の店がほしいのなら、オアシスでもシンドリーでも場所を探してやる」 「ずいぶんな大盤振る舞いですね」 「そうだ、二度はないと思え。但し、ティアラは置いていけ」 ヨシュアは少しの感情も表に出さずにファウストを見つめた。
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