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皇帝神在位十周年記念パレードの当日。
昨夜のぼんやりとした天気とは打って変わって、雲ひとつない晴天だった。
夜の間に申し訳程度に降った雪はまだ凍えたままの大地にうっすら名残りがあり、警備の任に向かう支度を整えている男達は昼間の内に溶けて泥々になるだろう足元の心配をして辟易していた。
「どうして、ウェイデルンセンの王様を誘ったんだろうな」
中の若い一人が、霜をさくさくと踏み潰しながらこぼす。
「不満なのか?」
同僚が聞き返せば、そういうわけじゃないけど、と尻すぼみに返した。
「俺は、ファウスト王で良かったと思うぞ。チェルソやボリバルのお偉方を見たけど、アスラ神様の隣に遜色なく肩を並べそうなのはあの方くらいだったろ」
チェルソにしてもボリバルにしても年齢がだいぶ離れていて、体型的にも痩せすぎか肥満という極端さで、アスラが見栄えするだけに、隣に並ぶならそれなりに相応しい相手を願うのは国民の素直な感情だった。
「だったら、レスターさんの方がお似合いなのに」
「なんだ。お前、実はそれが言いたかっただけだな。まあ、確かに、皇帝神が黒い装いだから、真っ赤なドレスとか着たレスターさんが並んでたらカッコいいよな」
レスターは公正中立なオアシスの代表なので、まずありえない想定なのだが、考えるだけならいくらでもありだった。
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