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笑顔で兄王を見送ったティアラは、自分が酷く嘘つきになったような気がしていた。
本当は、笑っていられる気分じゃなかったからだ。
これまでだって外交の使者として、姫巫女として、面白くなくても愛想を振りまくくらいは何度もしてきた。
それを憂鬱に思う事なんて一度もなかったのに。
そう考えてから、ちらりとヨシュアの整った横顔を見つめ、そうではないと自ら訂正をする。
正しくは、自分でもわからない、いい気分じゃないのだけは確かという謎な感情でいっぱいなのだ。
そのせいなのか、これまで一度だって躊躇った事のない、ヨシュアに呼びかけるというだけの行為が困難になってしまっている。
一方、そんな風に見つめられていたヨシュアは、珍しく話かけてこないティアラに、昨夜の決断を気付かれたのではないかと心配になっていた。
昨夜、ヨシュアは馬の用意の他にもう一つ、ファウストにお願いをしていた。
ティアラには自分が実家に着く頃まで黙っていてほしい、と。
伏せ目がちなティアラの横顔を眺め、これから先、ヨシュアが何かしてやれる機会がない代わりに、せめて残された時間だけはしっかり付き合ってやりたいと考えていた。
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