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「この浮気者」
ヨシュアは、じとっとした恨みがましい視線をねちっこく送っていた。
「あのさ、この件はヨシュアだって了承してるはずだよね」
「……」
困ったシモンが控えめな反論をすると、ヨシュアは無言でむくれてみせた。
「ヨシュアって、やっぱり弟気質だね」
余裕のある大人なシモンに笑って流されて、ヨシュアは更にむくれた。
周辺諸国より一足先に紅葉が始まり、先んじて冬の気配が近くなってきた山間のウェイデルンセン王国。
その最奥に位置する真白の城の中で、王妹の婚約者という肩書きで居候している身のヨシュアは、この頃少々機嫌が悪かった。
「最近のシモンって、なんか妙に楽しそうに見える気がするんだけど」
その膨れっ面ぶりは機嫌が悪いという前言を訂正する必要があるほどの有様で、駄々っ子になって拗ねまくっているという表現の方が的確である。
「そういうヨシュアこそ、張り切って入念な準備をしてるくせに」
「裏がないとは限らないから、念を入れてるだけだよ」
「でも、きちんと自分でやるって決めたんでしょ」
「まあ、ね。いつまでも居候なんて格好悪いし」
城内の誰一人として居候なんて思っていないのに、頑なで拗れた性格のヨシュアは半年以上経っても未だにそう言い張っていた。
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