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月光の影
高校に入ってすぐ、彼女ができた。
クラスが同じなので、学校いる間はほぼ一緒にいられるけれど、家がかなり厳しいらしく、門限は五時。途中までは送って行けるけれど、どこかに立ち寄ることさえできない。
それでも、学校では顔を突き合わせていられるから、俺は充分幸せだった。
そんなある日、明日提出しなくてはいけないノートが見当たらなくて探していると、彼女から電話がかかってきた。鞄に俺のノートが入っていたので、電話してくれたらしい。
明日、学校で渡そうかと言われたが、まだ少し未記入の部分があって、さすがに明日では間に合わない。そう告げたら、もし取りに来てくれるなら、家の側で電話をかけてほしい。そうしたら家をこっそり抜け出すと言ってくれたので、俺はすぐに了承し、彼女の家に向かった。
約束通り、ごく近所から彼女に電話をする。程なくして、彼女が俺のノートを持って現れた。
初めて見る彼女の私服姿に気持ちが凄まじく盛り上がる。
折しも空には満月。狼男が出現してもおかしくはない状況だ。
ドキドキしながら手を伸ばす。目当ては差し出されたノートではなく、彼女の肩だ。
両肩に触れて、そのまま抱きしめるか。あわよくば…。
やましい期待に気持ちが昂ぶる。だけど、俺の手は彼女に届く前に止まった。
満月の光の下、彼女の影が道路に落ちる。その輪郭は、彼女のものでは…人間のものではなかったからだ。
どうしたの? と彼女が俺を見つめる。その姿はとてもかわわいのに、意識が道路に落ちた影に向いてしまう。そのことを悟られる前にノートを受け取り、これ以上ここにいると、家を抜け出したことがバレ、怒られてしまうからもう帰った方がいいと紳士ぶって彼女と別れ、俺は混乱する頭を抱えながら帰路についた。
そして翌日。陽光の下の彼女の影は、見えている姿通りで、俺はますます混乱したのだった。
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