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無視された七三男は、娘に頼まれていたハーゲンダッツを思い出し、スーパーへと向かう。なぜか悪い予感がしたので男爵も一緒についていった。
「おい七三男、貴様の名は?」
「名前……? そんなものは捨てた」
「呼び名がないのは不便だな。わかった、『ハイヒールすね毛』と呼ぼう」
「ひ、ひねれよ! 見たまんまじゃねいか!」
名を名乗らぬ七三男の履いていた靴は――ハイヒールだった。そして、その脚は当然の帰結として黒のストッキング(ガーターベルト付き)。
この姿を見て『変態』の一言で片付けないのが、子供なのに男爵と呼ばれるジェントルマンの優しさといえよう。
そうなのだ。
男爵の名は伊達ではなかったのだ。そう、たとえ自分の出自がド辺境な田舎のイモ男爵だったとしても。いずれ自らを真の男爵と呼ぶ者も現れるだろう。
そんな思いにふけていた男爵はハイヒールすね毛に再び声をかける。
「嫌な予感がする。スーパーだけはやめておけ」と。
なぜなら其処には奴がいる。自分が『男爵』ならば、奴は『女帝(クイーン)』。あの艶やかな美貌と蕩けるような舌触りの前に、ハイヒールすね毛といえども太刀打ちできないだろう。
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