第十二話 じゃじゃ馬ならし

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 確かに俺は、メソメソといじけてる江上を追った。ハンカチも貸してやろうとしたよ。わざわざ運転してここまできたさ。  でもな、俺は初めから玲奈ちゃんのママに会うつもりなんてない。それは俺自身の将来のためだ。お嬢様のマスオさんになって肩身狭く生きてくなんてまっぴらごめんだからだ。  江上の口調はいつもの声に戻っていた。俺を抱きしめたままグリグリと顔を擦りつけ、髪やらおでこ、見えてる場所全てにキスしてくる。 「大好きだよ」  自信満々で甘ったるい声をだす。  癪に障るけど、やっぱりお前らしいわ。  さっきは、あんまり元気無くすからついついほだされた。でも、この余裕こそ江上琴充なんだよ。  こいつの事だ、おおかた前に言ってた中学の柴犬事件のように、弱く見せさえすれば俺が放っておけずに手を差し出してくると計算でもしたんだろう。  それでなんだっけ? 俺が江上を抱きしめる? まんまと念願かなうってところか。  結局、江上の作戦勝ちって寸法だろ? でも、残念。お見合いはお前の希望した通りの中止だが、結果お前が機嫌を戻したことで、お前の念願である抱擁は叶わない。  つまり、俺の勝ちってわけだ。 「知ってるか? お前の作戦が失敗に終わったの」 「作戦? なんだっけ?」 「俺の性質を利用しただろ」  江上は顔を上げ、うっとりした眼差しで俺を見た。 「なんのことかわからないけど、初めて出会った時からずっと、アキヒロが好きだよ」  何が言いたいんだ? 会話が成立してないぞ。この期に及んで、シラをきるつもりか?   はっは~ん。俺に気づかれたのが、面白くないんだな? 「せっかくここまで来たんだし、部屋行こうよ」  江上分析中の俺の唇に、唐突にチュッと軽いキスで触れ囁いてきた。たっぷり甘い雰囲気で俺を包み込んでくる江上。  ほだされてなるものか。 「俺の話聞いてるのかよ」 「聞いてるよ? もっとちゃんと聞きたいから部屋へ行こう」 「嘘つけよ。部屋へ上がったら最後だろ。俺を甘く見るんじゃない」  中学生や高校生じゃないんだ。二十六の大人だって言ってるだろ。部屋に行ったら、話はおろかヤラれるのは必定。仕事中にされてたまるかっての。
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