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浩介と別れA組のドアを潜る。
初日は席も名簿順。
世間というものはなんとも残酷だ。今日も十中八九あの時間が来るだろう。今日一日で終わればいい。でも、中高は小学校と違って教科毎に教師が違うためそうもいかないことが多々ある。
俺の名前は須藤明彦。
苗字はいい。問題は下の名前。アキヒコではなく、アキヒロ。でも初見必ずみんな俺をアキヒコと呼ぶ。その度に俺は「アキヒロです」と訂正しなくてはならなくなる。
十五年……もういい加減にそのやりとりはうんざりしてる。
これはもう慣れとかの問題ではなく。めんどくさい。そして、やっぱりかという落胆もまた然り。もういいじゃないか。放っておこう。呼びたいように呼ばしておけばいい。そう思ったこともあった。しかし、その場合、相手との関係が深まってしまった時のリスクは大きい。相手は相当なショックを受けるし、打ち明ける機会を伺うのもバカげてる。
ということは、やはり今回も俺は自己紹介で自ら訂正をしなければいけないのだ。気が滅入る。
ふと視線を移した先にアイツがいた。
俺とほぼ変わらない身長の男。
そうだ! 今日は俺ばかりがウンザリを味わうわけじゃない。
アイツの名前こそ苗字といい、名前といい。間違われて当然。いや、間違われるべくしてつけられた名前じゃないか! そう思うと俄然俺のテンションは上がり、なんだったらヤツに妙な仲間意識すら芽生えてきた。
もしかしたら、アイツとも仲良くなれるのかもしれない。
なんとも現金だ。俺はあれだけ疎ましく思っていた自己紹介を今は待ちわびてさえいる。
「……中学です。趣味は音楽です。よろしくお願いします」
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