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「お疲れ。腹減ったな」
営業時間をとっくに過ぎた八時四十五分。
受注をもらった契約書類や車庫証明書類などの作成をしていると江上が書類を仕上げたのか急に話しかけてきた。
「お疲れ様。こんな時間だしな」
今日も休憩なしの残業になってしまった。静まりかえった営業所に残っているのは二人だけだった。休業日前の日。残業なんて誰もしたくもないだろう。
でも、俺は違う。動ける時間はなるべく顧客に回したい。休業日前だろうがなんだろうが、事務作業はたいがい残業や、家へ持ち帰ることにしてる。それは成績上位者であるコイツとて同じだろう。
江上は立ち上がり、なぜか俺の横の椅子へ座った。
「なぁ、飯、食いに行かないか? まともな飯」
まともな飯……そのワードについつい乗ってしまいそうになる。
この仕事、昼も夜も食事を取れないことが多い。
食えたとしてもコンビニおにぎり。せいぜいサンドイッチの毎日。カップ麺なんてとんでもない。三分待ってる間に仕事の電話が入ってしまい食べ損ねるのが関の山だ。
江上の言わんとすることもよく分かる。しかしだ。誘って来た相手が相手だ。しかも同僚なのに入社三年目にして初めての誘いだし。いや、誘われたかったわけじゃない。俺だってコイツとサシで飯とかあり得ないと思ってるからもちろん誘ったことはない。学生の頃からだ。
なのになんで今更。
同僚で、高校の同級生だが、過去から現在に至って俺たちに接点はなにもない。ここまでくるとただの食事とは思えない。なにか俺を貶めるための罠でもあるんじゃないのか。そう考えるのがむしろ自然じゃなかろうか。
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