第十二話 じゃじゃ馬ならし

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「もともとこんなんだよ。毛嫌いされてると分かっていたからそう振舞っていただけ」  江上の表情が若干変化した。口元を歪めて笑う。まるで人格でも入れ変わったかのような江上。 「いい子にしてたって、ガン無視だったろ?」 「ほら、そっちの方がお前らしいよ」  江上が手を伸ばしてきた。ハンドルの上に寝そべるように乗せていた俺の頭に腕を回すとガシッと後頭部を掴む。俺を伏せた状態のまま動けないようにして顔を寄せてくる。ドンドン近づいてくる顔面にビビってると、おでこがコツと当たった。苦しそうに声を潜め江上が囁く。 「アキヒロを取られたくない。見合いなんてしないで」  かまえていただけに、予想外の展開のせいか江上の悲痛な囁きに、クッと胸の奥が詰まるような感覚になった。  俺は逃げるように視線を落とし言い訳した。 「見合いじゃない」 「だからアキヒロは天然のカワイコちゃんなんだよ。親も一緒に食事は、立派な見合い。そして親が気に入ったが最後、アキヒロにノーの選択はなくなる」 「俺だっておバカじゃねーわ。もう二十六だぞ。自分の不利になるようなことこれ以上やんねーよ」  言っても、もう十分不利なんだけどさ。なんだかんだ俺もぬるいよな。あっちこっちにいい顔なんてできやしないんだよ。人任せで考えてた罰だ。  学生の時みたいに嫌だからバイバイってわけにはいかない。玲奈ちゃんを多かれ少なかれ傷つけてしまうのは確実だ。正直気分は滅入るばかりだけど、俺も男だ。もう、腹を括ろう。帰ったら店長に正直に話し、頭を下げよう。玲奈ちゃんの連絡先を聞いて、あやまるしかない。結婚はできませんって。 「じゃあ、見合いしない?」  ウルウルした目で見つめてくる。俺はこの目に弱い。弱いっていうか、嫌いなんだ。江上に関しては。 「ああ」 「ほんと?」 「おまえに嘘つくメリットなんてないだろ」 「アキヒロ……」  グイと強引に引き寄せられ、ギュウウウッと抱きしめられる。 「よかった」 「だからってお前の為じゃないからな」 「そういうツンなところが可愛いよね」  ツンでもなんでもない。俺は真実を言ってるだけだ。
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