第一話 出会いの思い出

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 ホワイトボード上の大きな紙に、店長が赤マジックで「1」「2」「3」と数字を書き込んで振り返った。満面の笑みだ。 「先月の総売上一位は江上君。おめでとう! 江上君はこれで六ヶ月連続一位。素晴らしい! 二位はこちらも先々月と同じ、須藤君! 三位は……」   拍手の中、江上に続き頭を下げる。  今月の差は一件。そう、たったの一件だ。  店長の叱咤激励のあと、皆が各々のデスクへ戻りため息を零す。その中に俺もいた。  連続二位の売り上げ。聞こえはいいかもしれない。  でも俺は、なにひとつおもしろくない。  月初めの朝礼で毎回行われる成績発表。  棒グラフは総売上を示している。  新車の契約に加え、点検費、修理費、保険、カード契約……。そのトータル売上でまたもや負けてしまった。ノルマであるラインを軽く超えて黄色の帯を立てにグングン伸ばしているのは俺の同期にして、唯一のライバル。  一位と表されたライバルの名前を見据える。  江上琴允(えのうえことみ)。  この男の名前はエガミじゃない。エノウエ。コトミツじゃなく、コトミだ。  朝礼が終わった途端、誰かの携帯が鳴った。江上だ。
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