第一話 出会いの思い出

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「おはようございます。レッツカーサービスの江上です。はい。おはようございます、原田様。いつもお世話になっております。お車の調子はどうですか? はい、はい。左様でございますか。……はい。はい。ありがとうございます。いつもお声を掛けていただいて……いえいえ。はい。承知いたしました。ご予算や、ご希望の車種などございますか?」  早くも景気のいい電話だ。  原田とは、自社ビルを持っている原田商店の原田社長のことだろう。また新車に買い換える話しか。  ほどなく店の電話も次々に鳴り始める。慌ただしく掛かってくる電話の内容はおもに車の点検。俺はそんな中、手帳を開きこれからの予定の確認した。  十時一発目から、点検の予約が入ってる。すぐに引き取りに向かわないといけない。整備工場搬入後は俺だって確実な商談の予定が入っている。その後も夕方まで出ずっぱり。すでにビッシリと約束が入ってる。先手必勝。抜かりはない。今月こそ絶対負けない。  江上は携帯をデスクへ置くと、パソコンに向かって猛烈な勢いでキーを叩いてる。そこへセルフサービスのはずのコーヒーをそっと置く鈴宮さん。俺のひとつ下で、今年二十四歳になる。今ブレイク中の女優、岩見さとみ似のとても可愛い事務員さんだ。 「どうぞ」 「あ、ありがとうございます」  江上は鈴宮さんを見上げ、穏やかに微笑んで礼を言った。  江上は腰が低い。鈴宮さんが後輩でも関係ない。そういうところがまた女子ウケのポイントらしい。いや、認めるよ。ヤツはビジュアルもいいし、成績もいい。モテて当然なんだよ。  フーッと一息つき、気を取り直す。  手帳を閉じ、必要な資料を鞄に入れ席を立った。
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