1253人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはようございます。レッツカーサービスの江上です。はい。おはようございます、原田様。いつもお世話になっております。お車の調子はどうですか? はい、はい。左様でございますか。……はい。はい。ありがとうございます。いつもお声を掛けていただいて……いえいえ。はい。承知いたしました。ご予算や、ご希望の車種などございますか?」
早くも景気のいい電話だ。
原田とは、自社ビルを持っている原田商店の原田社長のことだろう。また新車に買い換える話しか。
ほどなく店の電話も次々に鳴り始める。慌ただしく掛かってくる電話の内容はおもに車の点検。俺はそんな中、手帳を開きこれからの予定の確認した。
十時一発目から、点検の予約が入ってる。すぐに引き取りに向かわないといけない。整備工場搬入後は俺だって確実な商談の予定が入っている。その後も夕方まで出ずっぱり。すでにビッシリと約束が入ってる。先手必勝。抜かりはない。今月こそ絶対負けない。
江上は携帯をデスクへ置くと、パソコンに向かって猛烈な勢いでキーを叩いてる。そこへセルフサービスのはずのコーヒーをそっと置く鈴宮さん。俺のひとつ下で、今年二十四歳になる。今ブレイク中の女優、岩見さとみ似のとても可愛い事務員さんだ。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
江上は鈴宮さんを見上げ、穏やかに微笑んで礼を言った。
江上は腰が低い。鈴宮さんが後輩でも関係ない。そういうところがまた女子ウケのポイントらしい。いや、認めるよ。ヤツはビジュアルもいいし、成績もいい。モテて当然なんだよ。
フーッと一息つき、気を取り直す。
手帳を閉じ、必要な資料を鞄に入れ席を立った。
最初のコメントを投稿しよう!