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俺には大嫌いなヤツがいる。
言わずとしれた江上琴充だ。「目の上のなんたら」なんて有名なことわざを引用するのも腹立たしい。とにかく目障り。ヤツとの出会いもまた、いけ好かないものだった。
俺と同期の江上だが、実は高校の同級生でもある。
受験戦争を終え、新しい制服。大きな校舎。初めての顔ぶれ。これから始まる三年間。その新たなる舞台におおいに胸を弾ませていた入学式当日。
校門を潜り、さっそくクラス確認の為、体育館前の掲示板へと向かう。
俺に駆け寄りガシッと肩を組む同じく制服がピンピンの山本浩介。胸には俺と同じ赤い花の胸章リボン。こいつの顔は初ではない。
同じ中学出身だし、同じサッカー部だった。
「アキヒロ同じクラスになれっかな?」
「違うといいなぁ」
「なんでだよ!」
「高校になってまでお前の面倒見るの嫌だもん」
シレっと言った俺の首を引き寄せギュウギュウしてくる。
こんなおふざけも俺たちの間では日常だ。
「ことみー! えのうえことみー!」
掲示板の方から女子が大きな声を張り、手を上げて人を呼びつけてる。
初日にこんな大勢の中、しかもフルネーム呼びとは……可愛そうに。きっとすごく恥ずかしいだろう。なぜそう思ったのか。それは、俺にはピンとくるものがあったからだ。
えのうえことみ……なんて清楚で可憐な名前なんだろう。
きっと大声張り上げてる、あの元気印の女子とは違って控えめな子なんだろうな。顔を真っ赤にして人波にもまれながらも、ちょこちょこ小走りして今にも現れそうじゃないか。ちょっと困ったような顔で恥ずかしそうに「もー」とか言ったりして。
俺はその妄想を見逃すまいと浩介を引き剥がしながら振り返った。
ヌッと視界を横切る影。
俺とほぼほぼ変わらない身長の男。
なんだよ、見逃したらどうしてくれるんだよ。邪魔だな。と思いながら、ことみちゃんを探す。
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