1254人が本棚に入れています
本棚に追加
「ホラホラ、見て! ことみと同じA組だって」
キャッキャと声を弾ませる元気印女子の声。
やっぱり見逃したか。クソ。
元気女子の方へ目を向けるとさっき視界を遮った男が立ってる。そいつに目をキラキラさせて話す元気女子。
へ?
俺はそのまま首を捻った。
ことみ……。
しばしフリーズした思考にマバタキしながら脳の再起動を試みる。
人間の思い込みとはなかなか厄介なものだ。
状況はどう見てもあの男が『ことみ』であるのに、俺の脳はそれを完全に拒否し、『ことみ』はきっとどこかにいるだろとの処理を下した。これからの高校生活の過程でいずれ『ことみ』を見つけることができる……と。
可愛らしい名前のことみちゃんのことはひとまず置いといて、自分のクラスの確認した。すんなり見つかる俺の名前。A組だ。俺の横で浩介が「Bかよー、おしーなー」と嘆いてる。AからFまであるクラス数。つまり六分の一。なにも惜しくはない。隣だからってもう少しでA組に入れたわけでもないだろ。
ん? A組? さっき『ことみ』もA組だと言っていた。いずれと思っていたことは早々にも叶いそうじゃん。
再度掲示板に目を向ける。男女、黒赤で記されている名前。女子の欄を確認してみた。エノウエコトミ。その名前は見当たらない。そもそも上野さんの次は大谷さん。エがない。
おかしいな。
俺の中でのみ、どうしてもなかった思考を一応確認のため見てみることにした。あくまで念のためだ。黒ネームにエがたった一つのみ存在してる。
江上琴允。
可憐で清楚なことみが俺の中で木端微塵に砕け散った。それでも俺の思考はあらがいを見せる。どうも俺は昔っからいい意味でも悪い意味でも、負けず嫌いな性格なんだ。こいつはエガミコトミツだ。
わかってる。エノウエコトミはいない。でも、俺の中でだけでも彼女の存在を許したっていいじゃないか。まだ見ぬ儚い片想いとして。このまま綺麗に、清らかに……。
最初のコメントを投稿しよう!