君の面影が消えるまで。

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その時はまだ新米で……迷惑ばかりを掛けていた記憶しか無いが、それでも勉強が分かって嬉しそうな顔をする生徒の顔を見ると、とても嬉しかった。 何となく会社勤めを経験してみて……確かに楽しい現場でもあったし(優希先輩が居たのが大きいけど)、俺の能力を買ってくれていたが……やはりこの仕事に未練があった。 勉強が得意な子でも、不得意な子でも……相手にして、自らの知識を与えてあげたい。そんな思いが何処かに残っていた俺はこの道を進むことに決めた。 会社を辞めてから、必死に勉強して……塾講師の採用試験にも合格。 2、3週間の研修を経て、俺は今、高校の数学を担当している。 「……葉山、先生。」 いきなり後ろから声を掛けられた俺は、驚きながらも平然を装った。 「何……、あぁ……水城か。どうした?」 「あの……ここ、よく分からなかったんです……。」 水城湊(ミズキミナト)、俺のクラスの担当の生徒だ。 「何処?」 そう言って近付くと……シャンプーのいい香りが漂った。 「あの……ここです。」
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