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魔式遠隔操作錠(オートロック)のキーを使い、ガチャという音とともに黒い鉄格子が消えた。檻の中に女性が入ってくる。手錠を掛けられ首輪を付けられ鎖に繋がれた俺を見て、その人は何が可笑しいのかクスクスと上品な笑みを溢した。自分の状況を嗤われているのは確かな筈なのに、何故だろう。その笑顔に見惚れてしまった。
「おい、運ばなくていいぞ」
「はあ、しかしそれでは」
「運搬のことは気にするな。私が運ぶ」
そう言うと女性はしゃがみこみ、僕の手を握った。腰まで伸ばされた長い紫の長髪が揺れる。甘い香りが広がる。握られた手から温もりが伝わる。品定めしているのだろうか。真正面から、鋭い目付きで顔を覗き込まれた。
「………………」
人間とは思えないような、整った綺麗な顔立ち。胸元の大きく開いたドレスの上に毛皮のコートを羽織っているようで、軽く動く度に揺れ動く胸が心臓やら何やらに悪い。
……何秒くらいそうしていただろうか。数分にも感じられたが、本当は数秒程度だったのかもしれない。まるで悪戯っ子の様にニヤリと笑った女性の体から、光の粒子の様な物が溢れるのが見えた。
「………!?」
良い買い物をしたな、と耳元で囁かれた気がするけど幻聴だったかもしれない。光が檻ごと俺達を包み込んだとき、意識は眩い光の中に溶け出して消えた
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