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『次の商品はこちら!旧名"天見夜宵"!』
名が呼ばれた。と同時にスポットライトが頭上から俺を照らす。それが眩しくて、視界も曇ってきたから思わず目を瞑った。
「お、おい……まさか"天見"って……」
「ああ、あの天見か……!?」
頬を温かいものが流れていく感触がした。それが鬱陶しくて、袖で顔を擦った。
『はい、皆様お察しの通り!彼はかの名高い天見家の一人です!しかもこの子の二つ名は――』
最早司会者の声も耳には入ってこなかった。頭が痛い。気分も悪い。体調不良を訴えれば帰らせてくれるだろうか。演技くらいには自信があるんだけど。どうだろうなあ。
「……!おい、それが本当なら何でこんなところに……!?」
「さあ?でも、これはチャンスじゃないかしらぁ……?」
「そうだな。もし本物じゃなくてもそれはそれで主催者側を訴えられる……!」
「三百万!三百万でどうだ!?」
昔、動物が取引される様子を見て自分に値がつけられるのってどういう気分なんだろう、なんて考えたことがあったが、その時の答えが分かった気がする。
最悪の気分だ、そんなの。
『待ってください。始値は千万ファルからです』
「せ、千万……!?」
「うむ、妥当では無いだろうか」
「二千万!二千万でどうだあ!?」
「三千万!」
「……三千五百」
「五千万で如何でしょう?」
おお、というざわめきが聞こえた。声のした方を見るとそこには宝石の散りばめられた豪勢な仮面を被った銀髪の女性の姿があった。
――不意に目が合い、女は上品に微笑んだ。普通は見蕩れる様な綺麗な笑みなのだろうが、何故だろう。背筋には悪寒しか走らなかった。
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