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『他に入札者はいませんか?いなければ五千万で落札されますが……』
誰もこれ以上値を釣り上げようとはしなかった。流石に五千万ともなればそう易々と手を出すのは難しいのだろう。
「……ご、五千五百万!」
「六千万」
一瞬値を上げた男に場がどよめいたが、再び入札した女がそれを上回った。周りも静まり、入札しようとする者は誰もいない様子だった。
思わず自嘲気味に微笑む。六千万か。自分にそれだけの値が付くというなら、少しは喜ぶべきかもしれない。まあ付いた値が何か俺に利益をもたらしてくれるわけではないけど。
再び場は静まった。司会者が結論を告げようと口を開いた。
『それでは、六千万ファルで天見夜宵は落さ―――』
刹那、時がゆっくりと流れるような感覚を覚えた。自分の運命が決まってしまったからだろうか。終わってしまったからだろうか。其れ故に、割り込むように呟かれた、威圧的なその声に先程とは違う意味で鳥肌が立った。
「……一億」
『は、はい?』
軽く挙手しながらとんでもない額を提示したその女性は、不機嫌そうな声音で呟く。
「聞こえなかったか?一億ファルで買う、と言ってるんだ」
「い、一億!?」
「おいマジかよ!?」
「俺の給料の何年分なんだよそりゃあ!?」
これまで静かだった観客が再び騒がしくなった。一億を提示した女性は不機嫌そうに脚を組み、司会者を睨む。恐らく早くしろ、と急かしているのだろう。
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