特等席

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特等席

 近田奈々子はクラスで一番背の低い女子だ。  詳しくは知らないけれど、百五十は絶対ない。もう高校生なのに、しょっちゅう小学生に間違われると、怒りながら笑い話をしていた記憶がある。  その近田が、席替えで俺の後ろになった。  ちなみに俺の身長は、もうじき百九十に手が届く高さ。もちろんクラスで一番高い。  そんな俺の後ろに近田…向うにしてみたら、壁だか山だかがあるって感じだろう。  だから、この席順になった時、替ろうかと言ったんだ。でも近田は、不自由はないからこのままでいいと言った。  そうはいっても、こんな身長差の俺が前にいたら、どう考えても不自由な気がするんだよな。  近田が不便なのは俺が嫌だから、遠慮しなくてもって思うんだけど…これ以上は好意の押しつけになっちゃうかな。うーん。 * * *  席替えで小山くんの後ろになった。  小山くんはクラスで一番背か高い男子で、確か百九十くらいある。  一方アタシは、クラス一のチビで、小学生にしょっちゅう間違われているくらいだ。  そんなアタシが自分の後ろになったものだから、気を遣って、小山くんはことあるごとに席を替ろうかと言ってくれる。それを、優しいなぁって嬉しく思いながら、でもいつもアタシは断る。  確かに不自由さはあるけれど、断然今の席順がいい。だって、席を替っちゃったら、小山くんのこと見ていられなくなっちゃうから。  座席に着けばいつも目の前にある大きな背中。その広い背中を、次の席替えまで、この特等席で見ていたい。 特等席…完
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