改札口

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改札口

 電車通勤をしているのだが、最寄り駅で見かける人の中に、いつも改札で引っかかっている人がいる。  見た感じ、普通にカードを改札にタッチさせているようなのだが、それでもその人が通ろうとすると、必ず改札は閉じるのだ。  高校生くらいの子達は『改札アウトの人』とかこっそり噂してるし、それを聞いた俺や他の人も、みんな上手いネーミングだなと納得する、そのくらい、その人は改札をまともに通れない。  いつも駅員さんが出てきては、改札をチェックして通している。  チェックが素直に終わる辺り、チャージ不足とか機械の故障とかではないみたいなんだよな。  だから見かけてる全員が、その人のことを、なんか運の悪い人だと思っていた。直接周囲に確かめた訳じゃないけれど、みんなそう思っていることは何となく伝わった。  その、改札アウトの人と、たまたま帰りも一緒になった。  その人の帰宅時間がいつもこのくらいなのかどうかは知らないが、今日は俺が残業でかなり遅くなり、後一つか二つで終電という時間だ。  ガラガラの改札にその人が向かうのを、行きはいつも引っかかっているけれど、帰りはどうなんだろうと、俺は下世話な好奇心を募らせながら眺めていた。  三つある改札の、真ん中に向かってその人が進む。その時に、改札の外に人が立っていることに気がついた。  改札アウトの人の知り合いなのだろうか。寄って来て改札の向こう側に立つ。…いや、そのまま進んできて、逆方向から改札に入って来る。  当然だが、両方から人が侵入しようとしたため、改札は派手な音を立てて閉じた。  駅員がやって来て、いつものように改札を正常にする。あの人が頭を下げながら外へ出る。けれど、もう人いる筈の誰かの姿はどこにもなかった。
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