第1章

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いきなりのファースト・シーンからただごとで無いこの映画。冒頭の迫真の演技にストーリィすら把握していない状態にもかかわらず、打ちひしがれ、感涙にむせぶ自分に驚いている観客である自分。何故泣いているのかわからない。とにかく祖父と孫娘の懸命なありのままのその姿に胸を揺さぶられるのです。何と言う映画なのでしょう。 祖父、忠男と孫娘、春の絶望的な旅の過程で、春が得たものとは何だったのか。失ったものとは何だったのか。人生において大切なものとは一体何なのか、深く考えさせてくれる映画です。窓の開閉が何かを暗示している。窓を開けるという行為。それは人生に正面から向き合っているということ。そして窓を閉めカーテンまで閉めるという行為は、人生の現実から背を向けていることを象徴的に表現しているようです。映画の常套的な演出技法ですが、これを実に上手に使ってわかりやすくして見せている。小林監督の厳しい演出術に感銘を受けました。 高間賢治によるカメラワークも素晴らしい。どこが素晴らしいか。一切の説明がないのです。だから昨今の商業ペースにはまった娯楽映画の、説明だらけの映像を見なれた人たちには、この素っ気ない映像は非常に不親切で下手くそなカメラワークに映るかもしれません。でもそこが愚かな鑑賞眼しか持ち合わせていない人の浅はかなところなのです。この映像、ただただ、祖父と孫娘のありのままを、そのまんま映している。このカメラは彼らに同情もしないし、否定もしない。やさしく見守るようなことでもない。見放すようなこともしない。仲代の迫真の演技、徳永の懸命の演技に一切の装飾をせぬまま、観客の前に提示する役割を見事に果たしている。その素晴らしい映像に心から拍手を送りたい。 とにかく特筆すべきは仲代達矢の入魂の演技が見られる。圧倒的存在感とはまさにこれ。そして道男役の柄本明の長ゼリフの見事さ。とにかく圧巻のひと言。思わず引き込まれます。行男の出所を待ちつづける哀しい女を演ずる田中裕子の想いを押し殺したような演技も見事。 これらの名演を存分に観られる、それだけでも映画ファン必見の名作。〈演技〉の何たるかがわからない人たちに教えてあげたい。これこそが演技の神髄だと。これこそが真の演技と言うものだと。若い映画ファンも是非見てほしい映画。徳永えりさんのけなげな孫娘ぶりが、胸を打ちます。
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