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看護師に車椅子を押されて出ていくリカを見送ると溜息をつくマチ。
「先生、リカはいつ元に戻りますか?」
「…彼女はいくつから虐待を受けていましたか?」
「私にも…わかりません。」
「恐らく4才からずっとでしょうね。怖かった記憶、痛かった記憶を全て放棄してしまったのでしょう。」
「……」
医師が机に向かうとカルテに記入する。
「今後は17歳の彼女に戻す治療に移る予定ですが…彼女自身が消したい、忘れたいと思っている記憶を書き換えるような方向でいきたいと思います。」
「でもまたいつか思い出したり、4才に戻ってしまったりしないんでしょうか?」
「消した記憶が戻ってしまう可能性はあります。それは今後の彼女の生き方次第で乗り越えられる強さを持っているかに寄ります。川辺さんご夫妻、彼女を取り巻く人間関係が、彼女に全てを乗り越えようと決断させる支えが重要な鍵となります。」
「必ず支えます。」
うんと頷く医師。
「では、彼女に与える新しい記憶や思い出を沢山作っていきましょう。」
「はい…、お願いします先生。」
リカの病室へと向かう廊下でマチはしゃがみ込む。
「先生はなんて?」
顔を上げると川辺が立っている。
「4才から17才までの記憶を新しい記憶とすり替えるって…」
「そうか…」
「でもいつか…記憶を取り戻してしまうかもしれないって…」
「……」
川辺はマチを立たせる。
「大丈夫だ。二人でしっかりリカを支えよう。」
「…ごめんなさい…貴方の人生まで巻き込んでしまって…」
「何を言っているんだ。もうリカは僕達の娘だろう?子供の為に苦労ができるなんて、僕達は幸せなんだよ。」
「…ありがとうございます。」
二人は身体を寄せ合いリカの病室へと歩んでいった。
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