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その年の八月、リカは18歳になった。
「誕生日おめでとうリカ。」
「ありがとう、…お…」
「お?」
「…お母さんっ…」
「っ!」
マチは持っていた陶器の皿を落とす。
真っ赤な顔でお互いの顔を見つめ笑い出す。
「ごめんね、なかなかお母さんって呼べなくて…」
「リカ…」
「10年以上かかっちゃったね…」
マチは微笑みながらもリカの記憶をすり替えたことが間違っているのか、そうでないかは未だわからなかった。
与えられた記憶を信じ、それを疑ったりしないのだろうかと不安になる日もあった。
通り魔事件のショックで記憶を無くしたと思い込まされ、心の傷も全て無かったことにしたのに…未だリカの身体に残る傷。
4歳の時に家が火事になり母親は死に、川辺家に引き取られたと聞かされてリカは一晩中泣いた。
あれだけ酷い目に遭って、知らないとは言え…母親の為に涙を流すリカを見るのが辛いと日記に綴るマチ。
「お母さん?」
「えっ?ああ、お皿…あっ!リカ触らなくていいよ。手切っちゃうから…」
慌てて割れた皿の破片を拾い指を切るマチ。
「お母さん!自分で言ってて指切ってる!」
「大丈夫、大丈夫だからリカは座ってて。」
リカは急いで救急箱を取りにいく。
「もーっ、ドジなんだからー。」
リカに手当をしてもらいながらも不安がよぎる。
「リカ…大学受験なんだけど…」
「うん。なあに?」
「本当に東京に行くの?」
クスクスと笑うリカ。
「もう気持ちは変わらないって言ったじゃん。これで7回目だよ~。」
複雑な思いが交差する。
「寂しいな…」
「えっ?でも近いじゃん。新幹線ならすぐだよ。」
未来に夢を抱き笑顔のリカに作り笑いを見せるマチ。
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