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「いい天気だね~。」
「もーっ、リカ!いつまで休憩してるの?そんなんじゃ一向に片付きません!」
「えへへっ、ごめーん。」
引越しの手伝いに来てくれたマチと二人、段ボールの山と戦う。
「お母さーん、これ本当に私の荷物ー?」
「当たり前でしょ、貴女の部屋から出てきたんだから。」
「ん~…やっぱり記憶にないんだよね…」
「だったら要らないゴミで出せばよかったじゃない。必要無いものは捨てる!いつも言ってるでしょ。」
「そうだけど…いつか記憶が戻るかもしれないじゃん。その時に後悔したくないんだもん。」
「……」
マチの身体に震えが走る。
「リカ…貴女の記憶のことだけど…」
「うん、なに?」
「無理に…思い出そうとしなくてもいいんじゃないかな。ほら、通り魔事件の時の怖かった記憶とかも…戻ったりしたら大変じゃない。これからは一人なんだし…」
「それは…そうだけど…」
「何かあったら、いつでも帰って来なさいよ。貴女の家は名古屋にあるんだから。」
「ふふっ、大丈夫だって。怖い記憶を思い出したとしても、名古屋まで逃げて帰ったりしないから。」
「リカ…」
部屋のチャイムが鳴る。
「あっ!お蕎麦屋さん来た!はーい!お母さんお金っ!」
不安が渦巻く胸で玄関に駆けていくリカの背中を見つめるマチ。
リカが記憶にないと言った荷物が詰め込まれた段ボールをクローゼットの奥にしまう。
「何も…思い出しませんように…」
願いを込めて段ボールに触れた。
「お母さーん?お蕎麦食べようよー!」
「はいはい。」
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