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「さっきさー、あの子って後藤リカ?って聞かれたんだよね。」
「えっ?誰に?」
「知らない子。そうだよって言ったら顔色変えてどっか行っちゃったよ。」
「誰なんだろう。」
「もしかして、こっちに住んでた時の同級生とかじゃない?今度見かけたら教えるよ。」
「うん…」
熱いコーヒーに口をつける郁子。
「もしかしてさー、あんまり前向きじゃないの?」
「ん?」
「記憶…取り戻したいって積極的じゃないのかなーと思って。」
また腕の火傷の跡に触れる。
「そういう訳じゃないけど…」
「本当はさー、中学とか高校の時に誰かと付き合ったりとかしてたかもよー。それも思い出せないなんて、なんか悲しくない?」
「……」
ーーー思い出したいよ、本当は。
でも思い出したらいけないんじゃないかって思う。
この腕に残る火傷の跡…。
火事に遭ってできた火傷の跡とは違う気がする。
前に同じ火傷の跡を持ってる人がタバコを腕に押し付けて作った跡だって言ってたのを聞いた。
腕に何個も同じ火傷の跡がある私は…一体何者なんだろうって、失くした記憶の中で何をしていたんだろうと考えると怖くなった。
「コーヒー、ごちそうさま。私そろそろバイトだから行くね。」
「うん、私もそろそろバイト行く支度するね。また明日ねー。」
郁子を見送ると長袖シャツに隠れた火傷の跡を見つめる。
痛かっただろうし、熱かったに決まってる…。
それなのに、何も思い出せない。
思い出そうとすると頭痛がする。
私は本当は何者なんだろう…。
でも…知るのが怖い。
過去の自分に出会うのが怖い。
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