In order to become stronger

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「あの子…あの髪の毛の長い子。」 郁子が指差す女の子にまったく覚えがない。 「リカ?話しかけなくていいの?」 「…うん。」 歩き出す私について来る郁子。 「……」 郁子が無言で私の手を握った。 大丈夫だよ、と言っているように頷いて笑顔を見せる郁子に私も微笑む。 その日の午後は休講で中庭には何人かの学生が陽を浴びて過ごしている。 私もベンチで一人本を読む。 「リカ?」 振り返るとさっき郁子が指差していた髪の毛の長い子が立っている。 驚いて言葉が出ない。 「竹内先生がここの大学に戻ったから、ここに入学したの?」 「えっ?竹内…先生…?」 「やっぱり…あの頃から付き合ってたの?」 何を言っているのかわからない。 「あの…貴女は誰ですか?」 「…そっか、私とは口も利きたくないよね…」 その子はぎゅっと手を握りしめて下を向いた。 「ごめんなさい…私、事故に遭って…記憶を…」 ハッと顔を上げると信じられないといった顔で私を見つめる。 「渚だよ!覚えてないの?」 「渚…さん?」 「小学校からずっと一緒の渚だよ!」 「……ごめんなさい…。」 心臓が恐ろしい程激しく鳴る。 「…そっか。」 この人は私の知らない私を知っている。 知りたいような、知ってはいけないような複雑な心境の中、彼女を見つめる。 「忘れた方がいいことも…あるよ。」 「えっ…」 「ごめん、じゃあ…」 私の前から去ろうとする彼女の腕を咄嗟に掴んだ。 「…私はリカを裏切った。味方でいなきゃいけなかったのに…私は…」 「何が…あったんですか?」 唇を噛み小さく首を振ると私の腕を払って去っていってしまった。 私はその場を動くことができず、彼女の背中が見えなくなるまで見ていた。
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