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「…なるほど。リカが記憶を無くす前の高校で臨時の英語教師だったんですね。」
「……」
また心の中にモヤモヤが立ちこめる。
「記憶を…無くした…?」
「前に名古屋で通り魔事件ってあったじゃないですか。リカはあの時の被害者なんですよ。」
驚く竹内の顔をチラッと見るリカ。
「ニュースを見た時は同姓同名の人間かと思い込んでいたよ。まさかお前が…」
「それがきっかけでリカは記憶を無くしたらしいです。」
頬杖をつくと私の顔をじっと見つめる竹内。
「…それで?」
「はい?」
私と郁子が同時に答えた。
「記憶を無くして…元の記憶を取り戻そうとしてるんだろう?」
郁子も私の顔を見つめる。
「…いいえ。」
「は?」
「そうなのリカ?」
二人の驚いた顔にこっちまで驚く。
「いいの?知りたくないの?」
「……怖いの。」
二人は黙って私の言葉を待っている。
「もしかしたら、思い出したくない事なのかもしれないし、思い出したら…今の自分じゃなくなりそうで…怖い。」
「リカ…」
無言で立ち上がる竹内。
「だから…聞きたくないんです。」
「わかった。悪かったな、声掛けて。」
カバンにCDとレポート用紙をしまう竹内。
「あの…もしかして…曲の和訳してくれたのって…先生ですか?」
「…ああ。だが後藤に渡した和訳、納得いかなくてな。もう一度勉強がてら大学に戻ったんだ。」
「そうだったんですか…」
「自分でCDまで探して聴いてるよ。」
竹内を見上げるリカ。
「後藤…」
「はい。」
一呼吸すると竹内は言った。
「俺と付き合わないか?」
……ん?
「え?」
「ええええええーっ?」
郁子が悲鳴をあげた。
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