第1章

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「アキちゃんは末っ子で、兄弟のうちじゃ一番母ちゃんといっしょに生きている時間が短いんだから、今のうちにうんと可愛がってもらっときな」といって、私の方に顔を突きだすようにして笑った。私はからかわれていると感じながらも、母親から離れる気にはなれなかった。ふと、おばさんの(母ちゃんといっしょに生きている時間が短い)という言葉が私の不安を触発する。 (もし、母ちゃんがはやく死んじゃったら、どうしよう)母親といっしょにいない自分を想像すると、淋しくてたまらないないだろうな、と思われる。母ちゃんが死んだときには、と私は思いを巡らす。 (そうなったら父ちゃんに頼んで、母ちゃんといっしょに棺桶に入れて貰おう。そして、いっしょに埋めてもらうんだ)  ふと、祖母の葬式や墓場での光景が想いうかんでくる。深く掘り下げられた土の中へ、ロープで吊るされた棺がゆっくりと沈んでいく。やがて乱暴に、新しい土が落とされ始め、棺はみるみるうちに見えなくなってしまう。間もなく大きな土まんじゅうが出来上がり、そこに花やご飯や線香が供えられる。
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