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そんなことを想像しているうちに悲しくなって、涙がひとりでにたまってしまった。私はたまらずに母親の胸に顔をうめ、しくしく泣きはじめる。
夏である。
灼熱の陽が稲の穂の出揃った田んぼの水をすっかり温くしていた昼さがり、俄かに空が曇り始めた。母親は桑畑に行ったままだった。縁側から、黒い雲が煙のように低く流れ出すのを見ていると、私は急に心細くなってしまった。その頃、母親の私に対する態度に変化を感じていた。私はまだ、母親といっしょの蒲団で寝ていた。眠るまでの間、母の胸に手を伸ばし、乳房にさわっているのが好きだった。六人の子を育てた乳房は垂れ下がっていたが、その大きな乳首を指でさわっているとなんとも心地よい陶酔のような安堵に浸りながら眠りに入ることができた。ところが、その頃母親の胸に手をもっていくと、
「もう、小学校にあがったんだからダメだよ」
と邪険に払いのけるのである。私も頭ではそうしてはならないと思うのだが、手の指がなんとも淋しく、心もとなく感じられる。
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