第1章

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 私の眠りは、浅いものとなった。ふと、明け方目が覚めることがある。するとたまらず、私は母親の胸に手をのばした。母親が気がつかない限り、手が払いのけられることはない。気がついても、そのままにしてくれることもあった。明け方になると自然に目が覚めるようになった。障子の外が白々と明けていく頃、私は母親の様子をうかがいながら手をのばす。そうしてはいけないのだという思いがよけいに母親の胸を甘美なものにするようであった。  あたりは薄暗くなり、雨が来ることは明らかだった。迎えにいこう、と私は思う。家のなかにはすぐ上の兄がいたのだが、いまにも激しい雨がふりそうな空を見ていると、母がいない淋しさに耐えられない気がした。私は傘を二本もって走りだす。 「あれ、傘もってきてくれたのか」  と云って褒めてくれるかもしれない、そんな気持ちも掠めていく。初めははやる気持ちから足を速めたのだが、そのうちに雨雲の下に暗く蹲る畑や田圃や雑木林が何とも気味悪く、その不気味さが私をより速く走らせた。やがて私はあえぎあえぎ畔道の草を蹴散らしながら走った。
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