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「シニガミ?」
黒い衣を身に纏い
憂いを含んだ横顔の美しさに
思わず駆け寄った
「神様なの?」
「ああ。」
「名前は?」
「たくさんあるよ世界中に」
「面白いこと言うね。」
「そうかい?」
「こんなところで何してるの?」
フフッ
「死にそうな人の傍にいて現世に残った魂が悪霊にならない様に冥府に導くのさ」
彼は夜空を見上げながら話した
「死にそうな人って?」
フフッ
彼は小さく吹き出して
何も答えない
「あのさ、夏の大三角形って知ってる?」
「ベガ、アルタイル、デネブのことかい?」
子供は目を輝かせる
「そうそう、そうなんだ。それでね、七夕伝説の織姫はベガでね。彦星はアルタイルなんだぁ。そうするとデネブは取り残されて可哀想だよね。」
「どうしてだい?」
「だって織姫と彦星は愛し合っていて、お互いに愛されてるのにデネブは誰に愛されるの?」
「仕方ないさ」
「どうして?」
「愛される場所もあれば
愛されない場所もあるのさ
それは神にも
どうする事もできないんだ。」
プルルルゥゥ-
夜のプラットホームにベルがなる
汽車のライトが近づいて来る
「君はお母さんが好きかい?」
「好きだよ。大好き。」
「どうしてだい?」
「理由なんかない。
ただ好きなだけ。」
「そんなに叩かれているのに?酷い顔じゃないか。口からも鼻からも血が出ていて、両の瞼は紫色、あちこち骨も折れたり、陥没したり。」
「それは僕が悪いからで
ママが悪い訳じゃない。」
「そうか。君が悪い子供なんだね。じゃあしょうがないね。もし、もしだよ。君とお母さんのどちらか悪い方が死ぬとしたらどっちかな?」
「死ぬとどうなるの?」
「新しく生まれ変わる
準備をするんだよ。」
「じゃあ僕だ。今度はいい子供に生まれて、ママを怒らせない。」
「そうか。それはいいね。ところで君。時間があるならデネブを見に行かないかい?デネブの近くに行けば、デネブが誰に愛されてるか、わかるかもしれないよ。」
「え、行けるの?」
汽車がホームに入って来た
「ああ、これに乗れば行けるよ。」
「行くっ、行くよ。」
子供は汽車に飛び乗った
死神は猫を胸に抱えて
頭を撫でた
「ごめんね
君はまだ連れて行けない。」
そう言って猫をホームに戻すと
子供に続いた
プシュー
扉が閉まる
汽車は蒸気を上げながら
ポーッ
夏の夜空へ飛び立った
その様子を
猫はじっと眺めていた
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