第1章

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「もう一度かわうそと握手したい」 「え?いいよ、別に1人で行けばいいじゃん」 付き合って6年を迎え27歳となった私達。気付けばこんな冷めた会話ばかりしている。あの頃の熱さはどこへ行ったんだろう。デートの回数もまるっきり減ってしまった。 出会った時は大学生だったが、もう社会人3年目になった。お互いにそれぞれの道を歩んでいた。ある日の夜の事だった。彼から珍しく電話が来た。なんだか胸騒ぎがした。 「もしもし、ゆう?」 「どうしたの、電話なんて珍しいじゃん」 「いや、ちょっと話があって」 「話?何?」 「転勤が決まった」 「え?どこに?」 「長崎」 「え?長崎?嘘だよね? 「なんで嘘つかなきゃいけないんだよ」 「いつから?」 「来週」 「来週?急過ぎるでしょ」 「会社だからあるでしょ、それに冷めてたしちょうどいいんじゃない?俺ら」 「別れるってこと?」 「今でこそこんななのに、遠距離になったらもっとだよ。だったらしっかりお別れした方がいい。」 「そうだね。そうしよう。終わる時ってさ、案外あっさりなんだね。結婚いつなのって周りに騒がれてた私達だったのにね」 「先の事なんて分からないからね、今までありがとう。楽しかったよ。」 「こちらこそ、今までありがとう、最後の日は送りに行かせてよ」 「20日16時の品川駅発の新幹線で行くから」 こうして私達はお別れをした。忘れもしない11月13日。深夜1時15分。なんでこんな深夜に別れ話?ドラマじゃないんだからさ。別れってこんなものなのか?もっと揉めて終わるものじゃないのか?「別れ」と言うのを客観的にみている自分がいる。 いつも通り赤い電車に揺られて会社に行く。 いつもの風景。観覧車、ランドマークタワー。何も変わっていない。同じ風景。変わったのは相方がいなくなっただけ。寂しいのか?いや、そこまで会ってなかったし、1人の時間も嫌いじゃないから良かったのかもしれない。これで良かったんだよね。 1週間経ってついにお別れの時。16時発と聞いていたので15時半には着くようにはした。新幹線のホームの前にはひーくんがいた。「今までありがとう」と彼が手紙を差し出した。それに私は驚いた。私も手紙を用意していたからだ。新幹線のホームの前で手紙の交換をした。人はなくして初めてその人の大切さを知るんだろう。2人の目には涙が流れていた。
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