なくさないよ

6/6
前へ
/6ページ
次へ
君は、空に昇った。 俺は君をなくしたんだ。 それは変えようの無い事実だった。 昨日、あの後 君は両親に連れられて家に帰った。 君の両親は俺に「寄っていくか」と言ったけれど、俺は「また明日、お邪魔します」と断った。 そうして少しだけ、君の病室から見えていた公園で時間を潰してから、再び君の居なくなった病室を訪ねた。 そこは、もうすっかり片付けられていて、君が居た事実は跡形も無く消え去っていた。 君の言葉が響く。 『起こっている事の全ては事実であるけれど、それが自然だとは限らない。事実の裏側を見て。人間は、人間以外の生き物の生死は自然だと言うけれど、人間の生死には事実を曇らせる。その不自然さに気づける眼と心を持って』 俺は、俺の心が見せた幻の雨雲を思い出した。 思い出したくも無い雨雲。 その雨雲を思い出さなくなった時、俺は君の言葉の真意も失う。 俺は、君を失った。 けれど、君の本当の心を得た。 『物事の真意は、自分の眼と心で視て』 そう言った君の心。 END
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加