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泣かないんじゃなくて、涙が出てこないんだ。
我慢しているわけでもない。
だって君は昨日と同じように、同じベッドで横になっている。
昨日だって、一言も話さなかった。
君は目も開けなかったし、指の一本も動かさなかった。
白い壁に囲まれた部屋も、その部屋から見える景色も、昨日まで君の元を訪ねた時に見ていたものと何も変わらない。
あえて言うなら、病院脇の公園にある花壇の花が少しだけ多く咲いているかも知れない。
けれどさ、やっぱり分からないんだ。
昨日の君と、今の君は俺の目には変わったようには映らない。
俺は、泣きながら君の手を握って話しかけている君の友人や、その友人の様子を見て静かに涙する、君の両親から目を逸らした。
そうして、さっき見た空を見上げた。
見渡す限り青だった空。
それは覚えている。
雲ひとつない、青い空だったから。
けれど、そこにはポツンと一つだけ
真っ白な、分厚そうな雲が
小さく、一つだけ
浮かんでいた。
空は非情なんだ。
無情なんだ。
俺が覚えている君は真っ青な空と共に居たのに、俺の空にだけ雲が現れた。
君はその瞬間に、俺の記憶になって。
目の前にいる君は抜け殻なんだって思い知らされた。
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