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「自然の摂理なんて言われても、悲しいものは悲しいし、さみしいよ」
俺から出たものは、たった一粒の涙と小さく呟いた、その言葉だけだった。
俺に見える空は、みるみる内に曇ってしまって今にも雨が降り出しそうだった。
( やっぱり、こんな日は曇り空なんだ )
けれど、それで君の言葉の続きを思い出した。
『……だけどね、自然界に起こることの全てが、本当に自然な姿とは限らないんだよ。自然だと思っていること、当たり前だと思っている事の裏側に何が隠されているのか、それを見極めるのは自分の眼と心なんだって。私はそう思うの』
君の言葉が頭に響いて、俺は再び空を見上げたんだ。
俺の空は全然、曇っていなくて。
青空と、そこにポツンと浮かんだ、たった一つの白い雲だけが事実だった。
俺の心が創り出した幻の雨雲は、すっかり消え去っていて、やっぱり俺の眼は青空を映していた。
翌日、君は白い煙になった。
その日も、やっぱり空は晴れていた。
白い雲は昨日よりも少し多く空に浮かんでいて、煙になった君を優しく迎え入れていた。
時は確実に進んでいるんだと。
何があっても止まることは無いんだと、それだけは覆らない事実なんだという事を、俺に教えていた。
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