2000年

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 昨晩食べた豆乳鍋は絶品だった。先ほどまではそう思っていた。しかし、豆乳鍋は本当に絶品だったのだろうか? 非日常の世界で、親友と食べた夕食。それが、正体だ。つまり、私の脳次第なのだ。そうわかっていても、やはりコンビニ弁当を食べる気にはなれない。明日の昼食にしよう。午前中に起きる気は毛頭ないから、必然的に昼食になる。  目覚まし時計がセットされていないか確認をする。間違って目覚まし時計に起こされたら、私は罪なき相棒を破壊してしまう。社会人となって、さらに重要性を増した相棒を。  コンビニでお弁当と一緒に買った缶ビールは、一口飲んだだけで狭いシンクに流した。眠るにはまだ早いが、何もすることがない。あいつらに遭遇してしまうリスクがあったが、自転車のカギを握って、電気をつけたまま暗い部屋から出る。  思っていたよりも蒸し暑い東京の夜の中、自転車を15分ばかり漕いでレンタルビデオ店へ行き、1時間かけて借りる作品を決める。地元には大型のレンタルビデオ店がなかったこともあり、つい長居してしまう。  新作のポスターや、店員さんのオススメコメント、並んでいる夢物語たちのジャケットやタイトル、それらを見ていると一人ぼっちでも、この世界も悪くない、素敵な世界だと思えてくるから不思議だ。  こうして90分を費やして『マトリックス』を家へ連れて来た私はPlayStation2で再生する。祭り帰りや、一緒にDVDを選ぶカップルと遭遇しなかったことはラッキーだった。  やっぱり14インチのテレビでは迫力に欠けるが、『マトリックス』はそれに勝る名作だった。用意したコカ・コーラとポテトチップスに手を付けることなく、136分間も仕事のことを忘れることができた。そう思った時に、仕事のことを思い出してしまった。夏休みでさえ、仕事の呪縛には勝てないのだろうか。  私は棚上げしていたファイナルファンタジーIXを最初からプレイし直した。順調に進んでいたが、装備を充実させずに強い敵キャラと戦ってしまったために全滅してしまった。私は怒りのあまりファイナルファンタジーIXを割ってやろうとしたが、売ればお金になるので思いとどまった。
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