桜の前

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あたりはもう暗くなって人の顔がわかりづらくなっているが、歩の顔ははっきり見えた。今度は歩はすぐに歩き出さなかった。しばらく立ったままだ。 「おい、歩?なにしてんだよ。」 歩に声をかける。 「あ、ごめん、ごめん。」 慌てて歩き出したがすぐに足を止める。 「光。お前さ。」 歩がなにか言いかけたが、ちょうどそのとき同じ学校の生徒らしき集団がやってきて、彼らの話し声によって話は途切れた。 「いや、なんでもない。行こうぜ。」 よくわからないまま首を傾げている俺に、少し笑ったように歩が言った。 それからは普段の歩に戻っていつものようにくだらない話をしながら帰った。 しかしその夜、風呂から出て携帯を見ると歩からメールが届いていた。明日も一緒に帰らないかという内容だった。今までこんな風に改まって帰る約束なんてすることなどなかったからだいぶ驚いたが、帰り道でのことがずっと気になっていたし、特に断る理由もないから自然とわかったと返事をする。 布団には入ったものの、歩の言いかけたことが気になってなかなか寝付けなかった。
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