帰り道の桜

2/5
前へ
/24ページ
次へ
高校に入学して一週間程経ったある日、授業が終わって帰ろうと昇降口へ向かった。下駄箱からまだ真新しい革靴を出し、履いていた上履きを替わりに入れる。 「今から帰んの?」 靴を履いていると後ろから声を掛けられた。振り向くと同じクラスの伊藤歩(だったと思う)が立っている。 「あ、うん。えっと...伊藤君...?」 まだ歩とはあまり話したことがなくて名前もうろ覚えだったから自信なさ気に確認する。人の名前と顔を覚えるのはあまり得意じゃない。 「歩でいいよ。俺も今から帰るんだ。藤もたしか電車だよな。よかったら駅まで一緒に行こうよ。」 友達がいないわけではないけど、俺は人見知りな性格で仲良くなるまでに時間がかかった。だから歩が声をかけてくれたことはだいぶ嬉しかった。なにより自分の名前を覚えていたことに驚いた。まだクラスでの席は出席番号順だから席も伊藤と藤ではだいぶ離れているし、初日の自己紹介くらいでしか自分の名前を言っていない。 「うん。いいよ、帰ろう。あと、俺も光でいいよ。」 俺がそう言うと歩はニカッと笑って靴に履き替えるためにこちら側にやってきた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加