帰り道の桜

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やがて桜並木が見えてきた。薄いピンクの花が満開に咲いている。ふと一瞬、歩が足を止めて桜を見ていた。すぐに歩き出したが、その桜を見たときの歩の顔が今まで喋っていた彼とはなぜだか全然違う人間に見えた。 桜並木を抜けるとすぐに駅が見えてくる。この街は路線は一つしかないけど歩とは家が逆方向のため、改札を抜けてまた明日な、と言って別れた。ホームで電車を待っていると向かい側のホームの歩がこちらを見て笑って手を振っていた。俺も振り返そうとしたら、ちょうど電車が来て歩の姿は見えなくなった。 電車に揺られ、気付くとあの桜並木の下で見た歩の顔を思い出していた。 (なんだったんだろう) それは見逃してしまいそうなほど一瞬の表情だったのだが、なぜだか頭から離れなかった。なにか厳しい目つきだけれどどこか遠くを見るような、なんとも言えない顔をしていた。 それからもテスト前で歩の部活がない時や、時間が合えば歩と一緒に帰るようになった。二人で帰る時もあれば仲良くなったクラスメイトと数人で帰ることもあった。けれど歩のあの時の表情はあれ以来見ることはなかった。
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