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普通の女子ならきっとドキドキするシチュエーションなのかもしれないが、私にとっては違う。
思い出したくもない記憶が蘇ってきて、咄嗟に腕を強く振り払った。
「…っ」
次の瞬間、私は逃げ出していた。
私は暗い夜道をひたすら早足で抜けていった。
何も考えたくなかった。
ただひたすら早く家に着くことだけを願って歩き続けた。
もう少しで家が見える、その時背後に違和感を感じていた。
ー何かいるー
数年前にヤンキーに酷い目に遭っているので反射的に私は身構えた。
その姿が明らかになると同時に私は安堵して腰を抜かした。
「逢坂 紫苑」
彼の方も驚いたように目を見開いていた。私に驚いたと言うよりは私が腰を抜かしていたことに驚いたのだろう。
「大丈夫?」
心配して彼が手を貸そうとしてくれたその手を振り払った。
「別に」
すると、彼は「ああ。そうか」と1人納得した。
「安藤さんって男嫌いなの?」
「だから何」
あまりに唐突に言われたものだから一瞬気を抜いてしまった。
「男なんてみんな自分勝手で何も考えてない、辛い思いもしない、最悪」
そう私が言うと、突然彼は笑い出した。
「酷い言われようだね」
私には、一体彼が何を考えているのか分らなかった。
「本当のことでしょ」
「まあ、確かにそういう人だっているけど、みんながみんなそうじゃないでしょ」
そうは言っても、辛い事を経験してからの言い訳と、経験してないで言う言い訳では説得力が違う。
「確かに昔の風潮とか、簡単に消える訳じゃないからね、女性にはまだ生活しにくい世の中なのは間違いじゃないけど…だからって今からどうこうできることじゃないし」
「何でそんな、世界スケールの話してないし」
何だか良く分からない方向に話が進んでいる気がする。
しかし、不思議と不快感は感じなかった。
今までは、男子と話すことすら避けて生きてきたというのに。
そんなことを考えていたら何だか深く考えていた自分が急に馬鹿らしくなってきて、笑いが込み上げてきた。
「何か可笑しなこと言った!?」
「別にー」
街灯に照らされた影が揺れ、柔らかな夜の風が2人を導いていた。
ー今までとほんの少し違う日常へー
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