見知らぬ同窓会

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 斉藤は挨拶を終えると、女性の多いテーブルでご機嫌にビールを飲んでいた。少し汗ばんでいるワイシャツの背中を指でつつく。赤ら顔の斉藤が僕の方に振り返った。  一瞬怪訝そうな顔をした斉藤の目線が僕の胸元にさがる。名札と僕の顔を二回ほど往復したあと、白い歯を見せて笑った。 「山岸か! 誰かわかんなかったぞ!」 「皆に言われるよ。飛び入りの参加になって悪かったな、これ」 「構わないって。会費、四千円な。確かに受け取ったぜ」  斉藤が胸ポケットからクシャクシャになったメモ用紙を出し、山岸という名前に丸をつけた。 「それにしても、山岸の家にも同窓会の案内を送ったはずなのになぁ」 「何かの手違いで届かなかったのかも知れないな」 「ありそうなことだ。最近の郵便業者っていうのは、なってないよな。この間も会社で頼んだ荷物がさぁ……」  斉藤の愚痴に適当に相づちを打ちながら、僕は同窓会が行われている座敷全体を見渡した。  久しぶりの再会に笑い合い、時に抱き合う男たち。かつての思い出話に、目に涙を浮かべる女たち。  卒業した後に関わりのあった人も無かった人も、ここではかつてのクラスメイトとして同じぬくもりを共有していた。  その暖かさが、心地よかった。僕が演じる、山岸洋介という人間はどんな少年だったのだろう。かつての同級生たちが交わす思い出話の中に、彼の名前は全くと言っていいほど出てこない。出来る限り大人しそうな少年を選んで正解であった。  宴席に戻り、再び喧騒に包まれる。僕はあいまいな笑顔で交わされる言葉たちに頷き返しながら、ぬるま湯のような心地のよい空間を存分に堪能した。
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