見知らぬ同窓会

1/15
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

見知らぬ同窓会

「それでは、西鏑小学校平成十一年卒業生の十六年ぶりの再会を祝して! 乾杯!」  長ったらしい挨拶を終えた幹事の斉藤が、立ち上がりグラスを高々とさし上げる。座敷のそこらじゅうから乾杯の声とともに、グラスをあわせる音と喧騒が溢れかえった。  僕は宴席の下座、一番隅っこに腰かけて同じテーブルのメンバーと遠慮がちに乾杯をした。  伊東、西村、桐山、北村……。  見ず知らずの面々の胸元にある名札を乾杯の合間にちらりと見ては、名前を頭に叩き込む。十六年ぶりの再会を楽しむ彼らの笑顔が、とても眩しかった。 「山岸君、久しぶり」  すでにかすかに頬を赤くさせた、小太りの女性に声をかけられた。名札には、本田啓子と印刷されている。 「ああ。本田さん、久しぶり」 「山岸君、ずいぶんイメージ変わったね。最初わかんなかったよ」 「本当に久しぶりだからね。最後に会ったの、いつだったっけ?」 「卒業式以来会ってないじゃない。それとも私の事、どこかで見た?」 「いや、見てないよ。十六年ぶりか、誰だって結構変わるものさ。でも、本田さんはあのころのままだね」  SNSで見た卒業式の写真を思い出しながら、僕は慎重に言葉を選んだ。僕の言葉に本田は「やだぁ」と少し照れてみせる。大きな手に、指輪は見当たらない。 「山岸君、あ、圭介君て呼んでいい? もう、こんなにかっこよくなっちゃって。お仕事はどう? 恋人は?」 「ボチボチかな。おっと、斉藤に挨拶してくるよ」  本田の言葉に何かしら踏み込んでくる意図を感じ、僕は席を離れた。こういうとき、座敷の宴会は便利である。平成十一年に小学校を出て十六年ぶりということは、彼らはだいたい二十八歳になるのか。婚期を焦る女性も出てくるだろう。  恋愛がらみの微妙なものには、極力巻き込まれたくなかった。内緒話のような少数だけが共有していた思い出話も、出来るだけ遠慮したい。具体的な話題には、積極的に触れないようにする。  僕はこの同窓会に縁もゆかりもない人間なのだから。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!