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十二月二十三日  明日で一年か。んで、今日はオレの二十四歳の誕生日。 「聖(ひじり)ったら、顔ぐらい出しなさいよ」 「ん~職場で誘われてるんだ」  誕生日って歳でもないだろ?って母さんに電話ごしに笑ってみせる。 「明日も来れないのよね?」  一瞬言葉に詰まって、それから曖昧に唸る。 「彼女に……誘われてるんだよ」  それは嘘だったが、そうでも言わないと納得してもらえないだろう。  二十四年続いた行事をキャンセルするには。 「あなた、彼女が出来たの?」 「うん」  嬉しそうな母さんの声に心が痛むけど、今年はどうしても家に帰りたくない。 「そう……そうならしょうがないわね。柊(しゅう)ちゃんも今年は来れないみたいだし。でも、なんだか寂しいわ」  柊の方はうまく行ってるんだな。  胸が締め付けられるような嫉妬を感じて、それを必死で打ち消す。  柊が幸せなんだ、喜べよ。  二十三年一緒にいて、一年会ってない。多分、もうずっと会えない、オレの好きな人。  オレより頭半分高い背、まっすぐな黒い髪。少しつり気味の三白眼。名は体を現すで、植物の柊の木のように、どこか棘のある奴だった。
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