開幕 エリーヌの癇癪

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「さあ、わかったら早く準備をしてちょうだい」  それは、王女に敗北してから間もなくのことだった。急に外出の段取りを整えると、王女は私を連れてとある場所へと向かった。そこで私は野性的恐怖と本能的意欲を掻き立てられることになるのだが、あれは進んで経験したいと思う事ではない。  しかし、王女にとってここは鳥かごの中だ。何のひねりもないたとえだが、それで王女が辟易しているのも事実。癇癪をおこさぬよう、定期的なガス抜きも必要なのだった。  私はしっかりと覚醒してしまったことを思い直し、ベッドから降りて大きく体をのばした。今日一日は彩にあふれた時間になるかと思いきや、灰色の光景が早くも目に浮かぶ。正直気乗りはしないのだが、王女が望む以上、それは果たされなければならない。 「すぐに準備致しますので」 「ええ、あたしは裏口で待っているわよ」  言い残して、王女は素直に踵を返した。私が逃げるなどとはみじんも思っていないようだ。確かに、ここで逃げだせば王女に背いた罪を問われることになるだろう。たった一日の惰眠のために人生を棒に振るのは得策ではない。いくら私でも、そんな簡単なことはわかる。  誰に弁明すべきことでもないが、現実逃避のためか、くだらない思考ばかりよくまわる。いいかげん腹をくくるべきだろう。  手短に身支度をすませ、私は部屋を後にした。ため息を一つ、残しておこう。
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