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正直に申し上げるが、その瞬間、私に王女に気を配る余裕はなかった。来る、と身構えた時には、目の前に三体の猛獣種が迫っていたからだ。
体長は1m程度であるが、獰猛な性格と鋭い牙、そして微弱ではあるが魔法耐性を有しており、嫌でも近接戦闘を余儀なくされてしまう危険な種族だ。
鍛錬の賜物か、私は剣を抜いた動作で右の猛獣種を切り捨て、流れるまま二体目の側方に回り込んだ。踏み込んだ右足を軸に回転し、初動の勢いそのままに二体目を斜め上から切り裂き、突っ込んでくる残り一体に剣を突き刺した。
その先には、既に四体の死骸を足元に従え、つまらなそうな王女の姿。確かに、不意打ち気味だったから初めこそ警戒したが、相手取るにはいささかの不都合もなかった。
しかし油断はできない。この猛獣種は少なくとも十体以上の群れで活動しており、数が多い群体だと五十を超える。その証拠に、王女は表情こそ浮かない様子だが、警戒は解いていない。
こういった状況判断に慣れてしまったあたり、私も王女の抱える狂気にあてられてしまっているのかもしれない。いや、狂気と言っては王女に失礼か。レニル大臣に聞かれでもしたら、王女を侮蔑したと罪に問われてしまう。
だが、それでは今の私の気持ちを適切に表現できない。こんな非日常、こんな異常事態、慣れてしまったなんて、認めたくないのだ。
「ヴォリィ!」
「はっ……!!」
油断は出来ない、と先程申し上げたばかりではないか。ほんの一瞬レニル大臣のぷりぷりと怒った姿を想像したために、目の前に迫る二体への反応が遅れる。すかさず王女のフォローがはいるが、その王女の背後から群れのリーダーと思われる一際大きな猛獣が高らかに爪を掲げ襲い掛かってくる。
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