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護衛たる私が王女の後に付き従うのはどうかと思う反面、指揮官先頭の精神を体現する王女を為政者のお手本と言うべきなのか。世の中にはレディーファーストという考え方もあるので、一概に結論は出せまいと一人うなずく。
周囲を警戒しながらいつもと同じルートで森の奥を目指す。整備こそされていないものの、定期的に通っているからか獣道のように進むべき道が示されているように思える。そう、まるで導かれているかのように。
もちろんそれは錯覚だ。王女の偉大な背中が私にそう思わせているのだろう。むしろ私が足手まといになってはならないと思わせるほどに。
「そろそろね。警戒しなさい、ヴォリィ」
空気がひりつくのと同時に、王女が警戒を促してくる。しかしその言葉は私に向けられているようで重みがなく、気を遣っているのではなく自分に言い聞かせるためのようだった。
一瞬の静寂と緊張。なるほど、この瞬間ほど自信の生と覚悟を体感できる時間はないのかもしれない。五感を研ぎ澄ませ、空気と一体になり、本能に身を任せる瞬間。
こんなものに取り憑かれてしまった王女は、果たして幸運なのか不幸なのか。はたまた、私がただ大袈裟に考えすぎなだけなのか。
「……数が多いです。囲まれていますね」
「自分の身は自分で守りなさい。いいわね?」
立ち止まり、王女と適度な距離を取る。お互いを邪魔せず、しかしいざとなればフォローできる位置取り。特に示し合わずとも、この程度の連携なら即席で出来てしまう。
王女の才覚はどのようにして磨かれたのか。剣を合わせ、こうして危険に身を浸す度思う疑問が湧き上がってきたその時だった。
獰猛な魔物達が、場違いな迷い人を血祭りに上げてやろうと、牙を剥くーー
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